1993年実態調査と2001年意識調査について

高橋典男

長野県における部落の実態とみるとき、1993年に行われた総務庁調査(長野県分)と2001年県民意識調査、以降実態把握がされていない。

以下文章は私が分析したもんです。

(1)部落差別の概要

@部落の実態

長野県内の同和地区は、1975年調査で県内61市町村(県全体の市町村数は現在120)270地区に点在し、 世帯数は5518世帯、人口2万2392人である(ただし、これには実態把握困難な南信地域など、きわめて少数な地域は含まれていない)。

1993年総務庁生活実態調査(長野県分)では、報告市町村59(実際に同和地区はあるが「調査できなかった」との理由で報告されなかったところがある)254地区で、 4596世帯、人口1万5849人となっている。 地区規模別では60世帯以上は全体の5.5%、5世帯未満が23.6%、9世帯以下が約半数で、混住率は 7.4%と全国平均に比べてかなり低く、典型的な少数点在型部落である。 環境面では「同和対策事業」により整備が進められてきたが、今日的状況から見たとき老朽化等の問題や、少数点在と立地条件の劣悪さから「法」の摘要にもれ、 総合的な改善がなされていない地区や、事業未実施、未指定地区も多く存在している。

ア)部落の住宅事情をみると、「持ち家」率が88.8%と高いが、住居の建築時期は1970年代に集中しており、その5割は耐用年数が終わろうとしている。 とくに1980年以前の建築は76.3%で、その多くは同和対策事業の住宅新築・増改築資金貸付事業による結果である。 しかし逆に言えば今まで資金を借り入れる条件と制度がなかったことを裏付けている。 今日、表面的には住環境が「改善された」かに見えるが、その返済ですら精一杯で、その借りた資金を返済していける生活・経済状況に未だ課題がある。 部落は再び老朽化を抱え1970年以前の状況になっていくことが予想される。 さらに1世帯当りの平均敷地面積は県平均よりも27u少ない。 「家が密集し、老朽化し、バラックに等しい不良住宅」(1969年県部解審答申)から多少無理をおして新築してきた結果、現在の住環境に不満があるとするものは約4割。 住居の構造は木造が84.6%(県51.2%)、防火木造7.2%(県33.8%)、鉄骨・鉄筋コンクリート5.5%(県11.5%)と特徴がある。 なお、下水道普及率は市町村普及率の二分の一、トイレの水洗化率は長野県住宅統計調査42.1%に対し、同和地区は15.5%となっている。

イ)産業は、部落産業的なものはほとんどみられず(みられなくなった)、36.4%(75年調査では48.7%)が農業を営んでいる。 但し、農林水産省が行った全国同和地区農林漁業実態調査(農業センサス)で長野県の同和関係農家は1997年では1142戸、90年では1462戸だった。 また、農家率(総世帯に占める農家割合)は長野県全体21.1%に対し同和地区は24.8%である。 また、産業分類では同和地区は建設業が2割を占め、業種別をみると「建設業」が45.5%となっている。 さらに、皮革履物関係で事業所統計調査0.1%に対し部落は1.5%である。

ウ)有業者の就労状況をみると、雇用されている者は67.7%で、常雇は56.8%で、臨時雇・日雇は10.9%となっている。 企業規模では、10人未満が42.2%(県39.3%)、20人未満では54.2%と半数を超えている。 300人以上では10.9%(県20.3%)、官公庁では3.2%(県8.1%)である。 また、有業者の年収額をみると、100万円未満が長野県(平成4年就業構造基本調査)14.7%に対し部落は23.2%、 250万円以下が長野県39.8%に対し部落は54%となっている。 逆に700万円以上は、県全体の7.1%と比べて部落は2.9%でしかない。 年収平均では県平均と約100万円の差がある。

エ)事業経営の状況をみると、事業経営している世帯は、24.6%と全国と比較しても7.8ポイント高い。 経営組織では「個人経営」が76.8%であり、全国事業所統計による53.9%よりも23ポイントも高い。 株式会社は7.6%(全国事業所統計19%)、有限会社13.6%(全国事業所統計17.1%)である。 さらに従業者数では1人〜4人までで72.8%(全国事業所統計66.2%)と高い。 そもそも差別によって就職の機会均等を奪われてきた結果としての「生業」として出発してきた部落企業は、依然として部落の生活を支えるうえで欠くことのできない存在である。 と同時に、その零細性やそれ故の社会保障の不備、後継者難で将来設計がたたないなどの困難を抱えている。

オ)農業経営の状況(農業センサス)について、経営規模は経営耕地面積では、30アール未満が同和地区49%(長野県32.2%)、 50アール未満では同和地区は71.9%(長野県54%)である。 イで示した農家率が県全体より高い反面、経営規模の零細性は歴然としている。 また、100アール以上でみても長野県17.7%に対し同和地区は7.6%である。 その耕地利用農家割合についても、田が同和地区91.3%(長野県87%)、樹園地18%(長野県30.6%)、畑66.7%(長野県80.8%)となっている。 さらに、借入地の状況では田が同和地区14.6%(長野県13%)だが、樹園地・畑の借入地は同和地区農家にみられない。 農家の保有する山林面積は長野県200アールに対し同和地区は48.7アールでしかない。

農産物販売金額でも、50万円未満が同和地区70%(長野県55.2%)、100万円未満では同和地区81%(長野県69.5%)である。 専兼別農家構成比では専業が同和地区14.1%(長野県15.6%)で、これは、同和対策事業の近代化施設導入により高くなってきた(75年調査6.8%)。 第一種兼業では8.8%(長野県13.5%)、第2種兼業では77.4%(長野県70.9%)である。 こうした、同和地区の零細性と厳しい経営実態から1990年から95年までの経営耕地面積から見た離農構成比は長野県8.1%に対し同和地区は21.9%にものぼる。

カ)部落の世帯をみると、「高齢者世帯」が14.5%(県平均12.2%)と高く、年齢別世帯員でも15才未満は13.4%(県16.8%)、65才以上19.8%(県17.9%)と、少子化と高齢化はとくに部落内で進行している。 なかでも80才以上になると3.4%(県3.9%)と少なくなる。 これは厳しい労働のなかで寿命も短くなっているといえる。 また、20才から40才未満の世帯員では21%(県23.9%)で、女性に関しては18.8%(県23.1%)となっている。 健康状況についても「よくない、あまりよくない」が14.4%(県9.3%)である。

とりわけ、介護を必要とするものの割合は1.9%(県1.3%)で、ホームヘルパー等を利用しているものはほんのわずかでしかない。 在宅福祉、高齢者福祉などの施策が部落のなかにはほとんど入っていないのである。 さらに特徴的なのは世帯構造別世帯数では単身世帯が同和地区9.4%(県19.9%)、に対し、三世代世帯については25.8%(県19.5%)と高い。

キ)教育の現状では、まず最終学歴をみると、小中学校中退を含めた「実質不就学者」が1.8%(県平均0.2%)、 初等教育終了者(小中卒業、高校中退・旧中中退含め)は、55.1%(県34.7%)と高く、中等教育修了者は36.9%(県47.9%)、 高等教育終了者では5.7%(県16.6%)とかなり低い。 なお、高等教育修了者のうち、大学・大学院卒業になると1.6%(県8.1%)となっている。 年齢階級別では、35才未満で「中等・高等教育終了者」が9割前後となっており、解放奨学金などの効果が現われているといえる。 一方、高校進学率、大学進学率においての実態は次の通りであり、依然格差は変わらない。
進学状況の推移
年区
度分

 
高校進学率 大学進学率
全 県 部 落 全 県 部 落
69 84.0 40.0    
72
73
87.9
91.1
73.6
88.2
26.2
28.5
14.4
13.8
74 92.8 89.9 27.3 15.3
75
76
77
78
79
80
81
93.9
94.4
96.0
96.0
96.4
96.4
96.7
94.2
92.2
96.4
95.5
95.9
95.7
96.6
30.2
29.5
28.1
27.7
27.2
27.8
27.1
17.2
20.2
23.6
14.8
17.6
16.5
16.7
82 97.5 94.1 25.8 13.5
83
84
85
86
97.4
96.7
96.4
96.3
95.4
92.5
91.9
92.2
25.4
24.7
25.3
25.0
12.4
12.9
13.9
13.4
87 96.6 94.6 25.3 13.5
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
96.5
96.8
97.1
96.8
96.9
96.8
95.8
97.5
97.5
97.4
97.3
97.4
97.1
94.1
92.2
91.6
95.5
94.1
94.4
93.4
95.4
95.6
94.1
93.3
97.4
95.0
26.5
25.9
26.7
27.6
29.2
31.4
32.6
33.7
35.3
37.2
39.8
42.3
42.7
12.7
15.1
17.2
15.7
14.8
11.9
18.2
20.8
23.2
15.9
23.7
26.6
27.4

(注)1969年に解放奨学金制度がスタート。
1974年には、大学奨学金制度が新設された。
1982年は、大学奨学金「貸与」化。
1987年10月に高校奨学金「貸与」化。及び所得制限導入。

また、中退者も高等学校で6.3%、高等専門学校では12.1%である。 長欠児童・生徒数をみると小中合せて4.3%(学校全体では2.5%)と倍近くも多い。

ク)結婚をめぐる状況をみると、1985年の調査で「夫婦とも地区の生まれ」は65.6%に比べ減少しているが、今回の調査では58.5%となっている。 逆に、「どちらか一方が部落外の生まれ」は増加している。 また25才〜29才までで「夫婦とも地区の生まれ」は16.7%である。 こうした傾向は二つの側面が考えられる。 一つは、今日の社会が国際化・情報化へ急速に変化しているなかで、人と人との交流の機会が増えてきていること。 二つは、「同和」教育・社会啓発の成果が表われてきていることなどである。 しかし、この数字をもって「差別がなくなりつつある」とは言えないと断言できる。 一方では、依然として根強い差別意識も存在している。 1991年に県が実施した生活実態調査によれば、一方が地区外出身の夫妻360組が地区外の親元との交際について、「結婚以前から交際している」と回答しているのは、34.7%にすぎない。 つまり、結婚にあたり、また結婚できたとして何らかの差別をされているのが三分の二もあるということになる。 これは、1993年の意識調査で現われた「同和」地区出身者との結婚にたいする態度(既婚者)のなかで、何らかの反対の意志表示をしたもの47.2%をも上回っている。 それは、建て前のうえでは結婚を認めても、本音の所では反対する者もまだ多くいることを示している。

しかし、これらの調査では「差別の結果破綻になった」「結婚の条件として地区外居住を余儀なくされた」ケースなどは把握されていない。 実際の結婚差別の実態はさらに深刻であるといわねばならない。

ケ)人権侵害についても「有」とした者が49.1%である。 このうち、結婚・学校・日常生活・職場に高い数字を示している。 さらに、人権侵害への対応で、特徴的なのは黙って我慢したが40.5%ある。 一方県民意識調査では黙って我慢したが8.3%である。

以上の分析については、最近の調査をもとにしたものであり、過去の実態調査も含めた分析、また「事業未実施」部落についての考察が抜け落ちている。 また、部落の実態についてはこうした数字だけでは把握できない厳しさを抱えていることも考慮しなければならない。 さらに総合的な調査実施のうえで実態把握していくことが必要である。

A社会変化と部落

被差別部落の状況は、未だ多くの差別実態を残しながらも大きく変化してきたのも事実である。 その変化(改善)をもたらしてきた大きな要因は、言うまでもなく、この間すすめられてきた「同和対策」による。 しかし、その面だけではなく、社会変化に被差別部落も影響を受けてきたことも見ておかなければならない。 特に、被差別部落の就労問題は深刻なものがあり、仕事がない状況から一定度改善が図られてきた。 しかし、それは同和施策という面以上に、我が国の高度経済成長といった社会的状況を背景としてきた結果である。 そこで、今日的不況の長期化状況の中で、まず先に被差別部落の就労 に影響を及ぼすことは事実として捉えていかなければならない。

B差別事件の特徴と背景

差別事件は残念ながら後を絶たない状況である。 明らかにされてくる差別事件だけでも、年に数十件をこえる。 最近の特徴は差別落書き、差別文書、差別電話等、差別者が自らの姿を隠して差別する目的で差別するという意図的、挑戦的で陰湿な差別事件が多発していることも今日的特徴である。 長引く経済不況と失業が増す中、差別はその時代の社会状況とも常に深いかかわりを持っている。 時に近年高度情報時代を反映して、インターネットを使った差別事件が多発している。 悪質な内容が不特定多数の利用者に提供され、差別が拡大・拡散されているといった新たな今日的事件が発生してきている。 また、教育現場でのあいつぐ差別事件では同和教育のあり方はもとより、本質的な問題が問われている。 さらに、27年前に発覚した「部落地名総鑑」事件以来、差別を商う悪質な行為に対する取り組みがすすめられてきたが、差別を商うという悪質な事件は形を変え、インターネットでの部落の所在地・住民名等をばらまく事件や、いまだ身元調査事件があいついでいる。 差別は意識だけの問題ではなく社会的背景を問うものであることは明らかである。 一方、こうした部落差別に対する取り組みは、その一つとして「統一応募用紙」といった成果としてなしえてきた事実を見ておく必要がある。

結婚差別の現状は大変厳しく深刻である。 当事者の心情なども配慮しなければならないことも多く、表面化するのは氷山の一角といえる。 県民意識調査(Cの県民意識調査)でも明らかなように、結婚差別の課題は重大であり、「差別はしない」と考え回答してきた人が、相手が部落の人という当事者となったときに手のひらを返したように反対する事件や、親戚等の反対を理由に反対していく事件が後を絶たないのも事実である。

C県民意識の現状

2001年(平成13)の「人権に関する県民意識調査」では、重大な課題と問題点が示されている。 以下では、同和問題の解決に対する意識、教育・啓発に対する意識、結婚に対する意識を中心に検討する。 解決への意識がどのようにもたれているかは、まさに現実が早期解決に向かっているのかどうかを見極める重要な意識実態であり、同時にこれまでの行政・教育施策の成果と課題を浮き彫りにするものである。 また、その意識こそ教育・啓発が対象としているものであり、あらゆる教育・啓発が人々の意識形成に深くかかわることを考えると、教育・啓発に対する県民意識は重要な意味をもつ。 そして結婚は、生活のなかで直接に被差別部落大衆とのつながりを生む社会契機のひとつであり、厳存する部落差別がはっきりと姿をあらわすときである。

人権問題に対しての関心を問う調査では、「関心がある」(44%)「少し関心がある」(35%)を合わせると79%になる。 またどのような人権問題に関心があるかでは、「同和問題」と回答した人(複数回答)が46.1%である。 これは10人のうち8人が人権問題に何らかの関心を持ち、その半分の人が同和問題に関心を持っているということになる。 さらに,部落差別問題の認知率は96%であり、ほとんどの県民が部落差別問題の存在を知っている現状である。 問題は、この関心と認知の具体的な中身である。

ア)同和問題の解決について

同和問題の解決に対しての回答では、「自分の問題として解決に努力すべき」と考える人が35%いる一方、「他人任せ」(4%)「直接関係ない」(4%)「そっとしておく」(31%)「よく考えていない」(9%)という回答が48%を占める。 さらに、「どのようにしても差別はなくならない」という回答は10%である。 何をしても差別はなくならないと考えている人が、差別撤廃のための努力をする可能性は、きわめて低いといえる。 とすれば.厳存する部落差別に対して、約6割の人々が、自分からは解決に向けての努力・行動をしないということである。 (「そっとしておけば差別は自然になくなる」という意識については次項でとりあげる)ここには、県民ひとり一人にとっての課題になっているとは言い難い実態がある。 同和問題の解決は、「国の責務であり同時に国民的課題である」と答申されて30数年が経ついま、この結果は、従来と今後の県行政の責務を厳しく問うものである。

イ)教育・啓発について

同和問題についての啓発および義務教育での「同和教育」について、「ほどほどにすべき」「あまりやらない方がよい」「やるべきではない」という回答は、約半数を占める。 別の調査項目によると、60%の人が小学生から中学生のころに初めて同和問題を知り、そのきっかけは「学校の授業」という回答が群を抜いて多い。 また、講演会や研修会には41.2%の人が1回以上参加している状況がある。 学校教育、社会啓発の場が、部落差別撤廃を実現する教育拠点となっていることは間違いない。 そこにおいて約半数が、「積極的に行うべきである」を選択しなかったのは、何を意味するのか。 特に学校同和教育については、「あまりやらない方がよい」「すべきでない」という回答が27%を占める。 これは仮に1学級40人とするなら、10人強のかつての生徒や保護者が同和教育に対して否定的な評価をしていることになる。 被差別部落大衆から、教育・仕事を奪い、人間の尊厳を奪い、命を奪う部落差別を根絶していく教育・啓発において、「積極性」とは付随条件ではない。 必要かつ絶対条件であり、自明のことである。 これを考えるとき、この回答結果が差し出している問題はきわめて重大である。 学校同和教育・社会啓発の質と力量が問われているのである。 教育・啓発に対する県民意識のさらに具体的な中身の解明・分析と、それに基づく見直しと創造が早急に求められている。

ウ)結婚について

結婚に関する意識調査において、子をもつ親の76%が「賛成」(10%)または「意志を尊重する」(66%)と回答している。 この結果は、先の「部落の実態」のなかで述べたように、社会の全体的状況の変化、同和教育・社会啓発の成果が考えられる。 しかし、「反対」「認めない」「結婚しない」が、20%以上を占める事実。 建前では認めても、いざ自分にかかわってくると本音の所で反対する者も多くいる事実を見過ごしてはならない。 また、「意志尊重・貫徹」が、どのような内実のものなのかはさらに検討される必要がある。 既述したように、回答者の60%が.自分からは同和問題の解決に対して努力しないという現状がある。 そこから考えると、結婚にあたっては意志を尊重、貫徹するが、結婚後は部落差別問題にはふれない、部落を語れないという状況が生まれる可能性は十分に考えられ、現に多く存在するのである。 生まれたわが子にふるさとを語れない、自分の生きてきた思いを語れぬとき、部落差別は「どちらか一方が部蕗外の生まれ」の結婚率の増加を貫いて存在するのである。

以上、3項目を中心にして県民意識の現状を概括した。 そこに現れているのは、50余年に及ぶ県の施策を経てもなお、県民の6割は同和問題の解決に対して主体性を確立していない実態であり、その主体性を喚起するはずである教育・啓発に対する5割の県民の消極的・否定的評価である。 この実態のなかで、差別事件は後を絶たず、結婚差別の現状は厳しく深刻なものとなっているのである。 こうした現状に対して、今後積極的な施策が必要であることは.論を待つまでもない。

D「そっとしておけば差別はなくなる」「寝た子をおこすな」意識

県民の中には「部落問題は過去の問題」「そっとしておけば差別はなくなる」「寝た子をおこすな」といった意識が存在する。 この点について同対審答申は同和問題の本質の中で「わが国の社会、経済、文化体制こそ同和問題を存続させ、部落差別を支えている歴史的社会的根拠である」とし、「この問題の存在は、主観をこえた客観的事実に基づくものである」「いかなる時代がこようと、どのように社会が変化しようと、同和問題が解決することは永久にあり得ないと考えるには妥当ではない。 また、『寝た子をおこすな』式の考えで、同和問題はこのまま放置しておけば社会進化にともないいつとはなく解消すると主張することにも同意できない」と言い切っていることに、あらためて認識を共有するものである。 「寝た子をおこすな」意識は、被差別部落の中にも存在する。 しかし、その背景にある本質が違う。 被差別部落の人たちは部落出身を名乗ることで差別されることを身をもって知っている。 そのことでどれだけの苦痛を背負わなければならないかを前提として「そっとしておいてほしい」という意識が出てくるのだ。 言い換えれば、今日の社会の厳しい差別に対する「叫び」である。 一方、被差別部落でない人たちが言う「寝た子をおこすな」意識は言葉こそ同じだが、その背景と本質が違う。